第一部 三節 来襲

二人がテントで寝静まっているころ、俺は少しはなれた小高い砂丘の上で大の字になっていた。

・・・・・・・・・・・・星に手が届きそうな錯覚に陥る。おもわず、手をかざして、空をなでるように弧を描く。
今にもジャラッとガラス玉のような音がしそうだ。

昔から星が好きだった、季節ごとにかわるその夜空のエンターテイメントは
ゲッフェンという田舎町で育った小僧には、唯一の夢を膨らせるものだった。
事実、学者を目指した。
ゲッフェンは、魔法師と呼ばれる学者達が大勢居る。そのせいか大学や国の研究所などが多数ある。

学者は大きく五つに分かれる。
純粋に魔法の研究をする者。
自然学を応用する者。
星術を学び利用する者。
動物などの生態を学ぶ者。
医術を学ぶ者。これは聖職者に多い。

俺は大学まで進み星術を選考した。
星術は、天体の観測をし、暦の管理。災害の予知。星術魔法の研究をするものである。
魔法に関してはいまだ成功させたものがおらず多くの学者が知恵を振り絞っている。

そんな秀才達が集う大学で俺は次第に落ちこぼれ挫折し、今にいたる。

なぜか剣士という体を使う仕事のほうが性に合っていたらしい。
今では、それなりの古株である。それでもまだ数えで25だ。
剣士は戦闘で若くして命を落とすものが絶えず、それにより職自体におびえ辞めていくもの、
体力的に限界を感じ35くらいで引退する者も多い。
今居るギルドの支所で一番の古株が37歳というのだからすごい話だ。
魔法師なら死ぬまで魔法師というのがざらなのに・・・・
それでも、ギルドが成り立っているのはやはり多くの若者が16という若さで剣士の門を叩くからであり、高給だからだ。

実は、新人訓練の為プロンテラからわざわざ砂漠をとおってモロコまで行っていたのだ。
今はその帰りな訳だが、プロンテラにつくのは半月遅れそうである。

寝返りをうつ。地平線まで星でいっぱいだ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・。

突然、地の中を這うような恐ろしく低い音がそこらじゅうに響く。

頭で考えるより体が反応する。テント近くまで全力で走り、刃こぼれした日本刀を手に取った。

「おい!二人とも起きろ!!」

(この音まさか。。。。。)

テントからチカが顔を出す。

「うるさいわねぇ。この音なに?」
寝ぼけ顔で目をこすっている。

「いいからテントから早く出ろ!」

「はいはい。・・・・ねぇリラが居ないんだけど」

「一緒じゃなかったのか!?」

「寝つくまでは居たんだけどねぇ。どこいったんだろ?」

「しょうがないとりあえずあの砂丘まで走るぞ!ここじゃ場所が悪い。」

ザッパァッッッッ!!!!!!

突然、焚き火の辺りの砂が大きく盛り上がった。

「走れっ!!ここで食い止める!」

盛り上がった砂の山から大きなハサミが繰り出される。大蠍だった。
昼間しとめたのよりは小ぶりだがそれでも人の三倍はある大きさである。

「三匹目かっ!」
すかさず間合いをとる。

が、体勢をととのえる暇も無く二つのハサミと尻尾の毒針が容赦なく襲い掛かる。

「ぐっ!」

避けきれず衣服が裂ける。左わき腹にハサミの殴打。
腕と足ですかさずガードするが体が宙を飛び、5mほど弾け飛ぶ。

骨は折れてはいないが、びりびりと感覚がない。
それでも、走る。体の上にさえ乗ってしまえばこっちの勝ちだ。

だが、砂漠上での蠍の動きは俊敏きまわりない。
並大抵の事では死角に入る事さえ難しい。
(どうする。。。。)

獲物を追い込むように大蠍がゆっくりと近づく。
周りを確認する。今居る場所は砂丘の頂上。

(よし・・・)
意を決めて、後ろに飛び身をかがめる。これで、向こう側からは姿が見えくなったはずだ。


ギチギチギチギチ・・・・
硬い甲羅を磨るいやな音が近づいてくる。
身をかがめた状態で突けるように足場を確認する。

ずぃと大蠍の頭が頂上から出た。

「うらぁあああああああああ!!」

ヅシュ!!

刀が蠍の脳天を貫く。

!!!!!!!!!!!!!!!!!

音にならない咆哮がそこら中に響き渡る。
蠍が足掻く。毒針を振り回す。

深々と突き刺さった刀を抜き甲羅の上に飛び乗り、剣を一閃する。

ガキッ!!

異音がして毒針が支点を失い宙を舞い、同時に刀が根元から折れた。

大蠍は、力なくその場に崩れ落ちた。


「はぁはぁはぁ・・・・。たすかったぁ。

蠍の上から降り、砂上に座り込んだ。全身に力が入らない。

「まさか、一日で"ぬし級"のモンスター三匹と、やりあう羽目になるとわ。。。さすがに、やばかった。」

「おぉ。すごぉ〜い。」
チカが近寄る。

「あぁ、でも刀折れちゃったんだ。赤字じゃないの?」

「しょうがないさ。それより早くここを出る準備をしたほうがいい。」

「三匹目がいたということは、最低もう一匹いるはず・・・剣があったとしてもさすがに無理だ。」

「それはいいけど、リラまだ見つからないのよ。」

「そうか、、無事だといいが。とりあえず準備だけでもしよう。」

テントに戻り駱駝に荷物を乗せ、出発する準備をはじめた。

「でもさ〜。なんかおかしくない?」
荷物を詰め込みながらチカがいう。

「何がだ。」
チカから借り受けた大振りの両手剣を背中に付けながら答える。

「いくら突然変異ていってもさぁ。蠍て大きくて60cmくらいでしょ?あんなに大きくなるもんかなぁ?」

「まぁたしかにそうだが。実際にいるじゃないか。」

「そうだけどさ。何かあるんじゃないかって思ってさ。原因とか。」

「・・・・呆れた。よくもまぁ死ぬかもしれない状況でそんな事考えていられるなぁ。」

「死ぬ事なんて、死ぬときになってから考えればいいことじゃん。今考えておびえるなんておかしいでしょ?」

「なんとまぁ肝の据わったお嬢さんだ。うちの新人達に分けてやりたいよ。」
苦笑しながら、詰め終わった荷物を駱駝にのせる。

「よし、これで全部だな。あとはリラさんだけか・・・・どうする?」

「そうねぇ。・・・・あの娘、方向音痴だから星でも眺めにいって帰れなくなっただけかも。」

「砂漠のど真ん中でか?」
すごい話だ。

「一本道でも迷うもの。でも、大丈夫よ。リラには奥の手があるからいざとなったらそれ使うでしょ。」

「なんだそれは、ほっといても平気みたいに聞こえるんだが・・・・」

「平気、平気」
チカは、ためらうことなく駱駝に乗り進み始めた。

「さぁいこう。リラよかあたしらの方がやばい状況なんだから。」

「お、おい・・・・・・・・」
俺は釈然としないまま、駱駝を引き後について行く。

「いつまで気にしてるのよ。それよりさっきの続き。」

「心配じゃないのか?」

「全然。信頼してるもの。」
この場合、信頼の意味合いが違うと思うのだが・・・・・・・・

混乱している俺を捨て置いて、続きを話しはじめる。
「原因よ、原因。絶対なにかあるはず。」

「そりゃあるだろう。」

「そういう意味じゃないわよ。こう・・・もっと特別な特殊なてことよ。」

「特殊ねぇ、うーん・・・・・・・・・・」

「そーいや、二年くらい前砂漠に星が落ちたとか聞いたことあるなぁ。」

「あ、」

「ん?どした。」

「ぁ、いやなんでもない。」

「なんだ、いきなり歯切れが悪くなったぞ。何か知ってるのか?」

「う゛。・・・・・・・・・そういう訳じゃないんだけどぉ。」

「えとね、あたしが砂漠にいる理由がそれなの。」

「それって・・・・星か?」

「そう。それなのに特殊な原因とか言っといてミュラさんに言われるまで気づかなかった自分が悔しくてさ。」

(夕方探してたのはその星だったのか。なるほど・・・)

「落ちた星が原因かも知れないってことか?」

「そうよ。ありえない話じゃないでしょ?星の落下とモンスターの巨大変異。」

「どっちも通常考えれない特殊なことよ。」
ややこじ付けな気もするが・・・・

「まぁ星に関しては、まだわからない事だらけだからな。あの時もゲッフェンから調査隊が砂漠に派遣されたはずだけど。」

「知ってる。でも、その調査隊全滅したっての知ってた?」

「あぁ。たしか盗賊に襲われたとか・・・」

「あ、それ嘘。盗賊が調査隊なんて襲っても利益あるわけないじゃない。
仮に襲ったとしても襲うだけ襲って荷物には手をつけない盗賊なんて聞いたこと無いわ。」

「荷物残ってたのか。。。」

「そう、星術魔法師5人と付き人10人。後は現地での肉体労働者約50人。全員死んでたらしいの。
中には逃げた人もいるかもしれないけど。」

「やけに詳しいな。」

「発見したのが、うちの父さんなの。埋葬もうちでやったのよ。ゲッフェンから何も言ってこなかったからしょうがなくね。」

「・・・そうだったのか。」
なぜかチリチリと胸が痛む。学会の腐敗は、以前にも増してすごいようだ。
大学時代から賄賂などはあたりまえのようにあった。嫌な話だ。
かき消すように、頭を振る。

「どしたの?急に。」

「いや、なんでもない。」

「あっそ。でどう思う?」

「死因によるだろ。」

「お、さすが。死因は、全員毒死なの。すごいでしょ。
アナコンダの毒。魔法でやられたアナコンダが30匹以上見つかったわ。」

「アナコンダの大群か。」
遭遇したくない状況だ・・・・

「それも、また異常でしょう?アナコンダなんて集団行動しないもの。」

そうこう解決もしない話題を繰り広げているうちに、自分達の身の危険のことなどすっかり忘れ
いつのまにか宿場近くまでついていた。

「ミュラさんが、言ってた宿場てここのこと?」
チカがニヤニヤしながら尋ねる。

「あぁそうだけど、なんだその顔は、、、、」

「まぁあとでわかることだから、今言うのはやめとく〜。」
気になる・・・・・・・・・

「チカ!」
宿場口のほうから声がする。

「リラ!やっぱ迷ってたのね、あんた。」

「えへ、星見てたらテントがどこかわかんなくなっちゃって、、、」

「・・・・・・・・・・・・。」

「ねっ。言ったとおりでしょ?」
チカがこっちを見て胸を張る。

「あぁ!!ミュラさんどーしたんですか?擦り傷だらけじゃないですかっ!」

「あぁ、あれからまた大蠍がでてさ、大変だったよ。リラさんいなくなるし・・・・・・でもどうやって帰ってきたんですか?」

「テレポートポータル開いたんです。迷ったときはいつもこれなんですよ。」
リラが照れながら言う。

「それより!早く手当てしましょう。チカ、家のお部屋かしてくれる?」

「いいわよ、そうするつもりだったし。」

「家?チカさんの家ここだったのか・・・・どうりで。」
(ニヤニヤすると思ったよ。)

しばらく町中を歩くと大きな屋敷が見えてきた。小さな宿場には不釣合いなほどでかい。

「もしかしてさ。チカさんの家、大商人かなにか?」

「ぴんぽーん。モロコじゃ知らないもののいない大店(おおだな)よ〜。」

「ミュラさん、アマミヤ家て聞いたこと無いですか?」
リラが隣を歩きながら言う。

「焼き芋で、財をなしたあのアマミヤ家?」

「おぉ。知ってるじゃん。そそ、そのアマミヤ家。」

いきなりの展開についていけず、
しばらくなすがままに家へ招待され傷の手当てを受け、
食事と風呂を頂きそのままベットに倒れこんだ。
こうして怒涛の一日が終わった。

終始チカは、ニヤニヤしていた・・・・・・・。

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四節へ続く