第一部 七節 精霊の申し子

「もう、朝か・・・・・。」
夕べは、傷の手当てを受けた後。そのまま、寝床についてしまった。
どうやらあの2人に一服盛られたらしい。

おかげで、体はすこぶるいい。感謝せねばなるまい。
ただ、昨日のうちにやっておこうと思った事がまだ残っていた。
昨日の事件の被害者。あの娘のことだ。
隊長に了承を貰った件を話そうと思っていたのだ。

少し早いが、さっそく向う事にする。
たしか2階に部屋を取ったとチカが言っていた。

コンコン・・・・
ノックをするが返事がない。
昨日の状態のままならしゃべれないのだから当たり前だが・・・・

散々迷ったが、今話しておかないと討伐の後になってしまう。
運が悪ければここに戻る事すら出来ないかもしれない。

カチャ・・グィ・・

中は静かだった。まだ寝ているらしい。
ここでも迷う。
まだ、少女とはいえうら若き娘の寝室に寝ている間に入る事など最低な行為だ。

「だめだ。。。。こういうのは・・・・。」
などと独り言を言っていると廊下の奥から人が来た。

「なぁに、覗いてんのよ。変態さん。」

「!?」
チカだった・・・・。この娘は本当に不意打ちがうまい・・・・・。

「いや。覗きじゃなくてだな。あの娘の今後の事を本人に話しておこうと思ったんだよ。」
なぜか声が上ずる。

「ほほぉ。口実は立派だこと。
 まいいわ。あの子の着替えを手伝おうと思って来たんだけど早めに来て正解だったわ。」
そういいながら部屋の中へ入っていく。

「そこで待ってなさい。」

バタン
ドア越しに言うと閉めてしまった。

「・・・・・・・・・・・・。」
何故か敗北感たっぷりで素直に待つことにした。








40分くらい経っただろうか・・・。
女の着替えはこうも長いのか・・・・・ということを身をもって実感していた。

ガチャ。

「いいわよ。入ってきても。」

お呼びがかかる。早速入る事にする。

「プロンテラ剣士ギルド第2隊副隊長ミュラ入ります!」
いらぬ緊張で所属名まで名乗ってしまった。。。。

チカが声を殺して笑っているのが見える。
その隣で、貸して貰ったであろう服をまとった少女がこちらを見ていた。

朝日が彼女の黒髪を照らし輝いていた。
リラを見たときもそうだったが、どうにも魔法力のある人間を見ると周りにオーラらしき物が見える。
これは、他の人に言ってもわかってくれないのだが・・・・

その事もあってか一瞬だが見入ってしまった。素直にきれいな物を見たときと同じ症状だ。

「ミュラ。あんた何しにきてんのよ。そこに突っ立てるだけ?」

チカの声で我に返る。

「あぁ、すまない。」
そういいながら彼女に近づき腰掛けに座る。

「・・・アルシオーネ=グラフだね?」

少女はコクリとうなずく。

「理由はわかっているかもしれないが、君は両親と離れて暮らさなくてはならなくなってしまった。
 しかし、君はまだ未成年だし一人で何もないところから生きていくのはまだ無理だろう。
 そこでだ。私の知り合いに雑貨やら食料品なんかを取り扱っている商人が居るんだが、
 そこへ君を預けようと思うんだ。」

何を考えているのか少女はずっと空中を見つめている。

「・・・先方の了解をまだ得ていないんで、もしだめだった場合は私が引き取る事にした。
 気さくないい人だからおそらく大丈夫だとは思うがいちおうな。
 君自身のことだ。君が嫌なら他のところを探すがどうだろう?」

少女は、見つめていた中から視線を下ろしゆっくりと私の顔を見る。
そして、おもむろに羊紙とペンを取り何かを書き始めた。
書き終わった羊紙をこちらに向ける。

”あなたは、ジンに守られている。”

「ジン? てなんだ?」
思わず、チカに振ってしまった。

「えーと、たしか風の精霊王の名前がジンだったような・・・・?」

「そいつに俺が守られている? なんだそれは・・・・」

少女はまた書き始めた。

”ジンがあなたに付いて行けと言っています。
 ・・・・・私は声を失いました。
 戻るのかもしれませんが、何時になるのかわかりません。
 必ず、先方の方にもご迷惑になるでしょう。それでもよろしいのですか?”

冷静な文面だ。17歳の少女のそれとは思えない。
しかも、昨日はあれだけ取り乱していたのにこの落ち着き様はなんなのだろう。

「それは、かまわないよ。じゃぁ君はこっちに来る事は問題ないんだね?」

アルシオーネは頷いた。
そしてまた書き始める。

”私の事は、アーネで構いません。両親にもそう呼ばれていました。精霊たちもそう呼びます。”

「君は、本当に見えているんだな。精霊が・・・。少しうらやましいよ。」

アーネが、首をかしげる。

「いや、気にしないでくれ。先方へ連絡を入れる。チカ、あとは頼んだ。」

「ハイハイ。」

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「よう。考えはまとまったか?ヴィス=キスマーク。」

「やめて、て言ってるでしょう・・・・。」

「まぁいい。お前らの処罰が決まった。
 モロコ自治政府から届いた文面を読むから聞いてろ。
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盗賊団クロイツ

かの面々は、不当に貪った金品のみ強奪。
それを下町にばら撒くという行為を計43回にわたって決行。

しかし、行為自体は強盗であることにはほかならない。
臨時議会でこの問題を採決。

団員全員の処罰は、今から二年間、無報酬でモロコ支部剣士ギルドのサポート。
この処罰に例外はない。なお、逃走などした場合は即死刑とする。
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・・・・・・だそうだ。」

「ふざけてるの?」

「ふざけてなんかないさ。俺はそのまま読んだだけだ。」

「・・・・・こんな奴らだから、あの街は・・・・。」

「俺も同感だ。要するに犯罪者を刑に処すと金がかかる。かといって死刑と言うわけにも行かない。
 だから、妥協だ。こうすれば費用は剣士ギルド持ちだし、モロコの懐は全然痛まない。」

「・・・反吐が出るわ。」

「取引しないか?」

「・・・え?」

「俺達は、これからある所へ調査及びモンスターの退治をしに行かなければならない。」

「そこでだ、今から7日後の朝までに俺達が帰ってこない場合。
 君たちに現場まで来てもらい状況がどうなっているのかモロコへ報告して欲しいんだ。」

「そんなに分の悪い所?」

「分らないんだ。予想がつかないとも言える。
 もし、やってくれるならばプロンテラの本部へ君らのことを自由にして貰う様打診しておく。」

「議会の決定を覆していい訳?」

「知ったこっちゃ無いさ。モロコ側は、こっちの了承も得ずにこの判決を下している。とやかく言われる筋合いは無い。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「ただ自由になってから、また今回のようなことをやって捕まった時は命の保証はしない。」

「・・・・わかったわ。でも、これだけ入っておく。
 奴らの言いなりになるんじゃない、あなたの頼みだから聞くだけ。いいかしら?」

「信じてもらえて光栄だよ。ヴィス=キスマーク」

「あなたわざとやってるでしょ・・・・。私の事はビーと呼んで。」

「それじゃ、部下達に君から説明してもらえるかな。俺達が言っても納得しないだろうからね。」

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「皆もすでに知っていると思うが、モロコ自治政府からの通達により本作戦に昨日の元義賊団が配属される事になった。
 納得のいかないものも居るだろうが、彼らとてやり方は違えどモロコの行く末を案じての事だ。目を瞑って欲しい。」
ラバエルが、剣士達の前へ立ち通告している。

「第一陣は、我らだ。気を引き締めて準備に取り掛かるように。」

「ミュラ君。君から何かあるかね?」

「・・・そうですね。ではひとつだけ、君らはまだ若い。決して命に代えてもなどと言う愚かな行為は慎むように。
 命をかけるほどの覚悟があるのなら、全力で生き抜いて見せろ! ・・・・以上。」

「うむ。・・・彼の言うとおりだ。私より若い者が倒れていく様は、見たくないものだ。皆頼むぞ。」

剣士たちは皆何かを心に秘め、ラバエルの言葉に頷いている。

「では、これより1時間後。西の砂漠へ進軍する。・・・・それまで、各自自由行動を許す。解散。」
皆思い思いに散ってゆく。


太陽が西日へと移り変わる。
もうすぐ夜が来る・・・・・・・・・・。
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八節へ続く・・・