第一部 五節 襲撃 |
言いようのない緊張感が体中を走る。 三回対峙したあの大蠍。出来れば二度と見たくないのだがそうも言っていられない。 副長として今回の隊を、まとめないとならないからだ。 隊長はモロコ支部の古株がやる事になったらしい。 気がかりなのは血気盛んな新人剣士とリラの事だ。 一度新人訓練の時、会ったのだが志が高すぎて無鉄砲なやつが大半だった事を思い出す。 大いに結構なことだが、状況を把握できないやつは大抵初戦で痛い目を見る。 戦闘なのだ、怪我だけで済めばいいが死ぬ事だってからだ。 リラも似たような匂いがする。状況把握は高そうだが、あれはどう見ても戦闘初心者だ。 あと、それ以外にも何か・・・焦っていると言えばいいのだろうか? そんな印象を受ける。初めて会ったときの落ち着き払った姿とは明らかに変化している。 それでもヒーラーが居ると居ないでは天地の差だ。同行したいという申し出を断る理由もないのだが・・・ 出来るだけ安全な位置で回復に専念できるように考慮した作戦と陣形を組まないとならないだろう。 ・・・・ド・・ドドドド・・・ドド・・・ 遠くで多数の蹄音が聞こえる。どうやらモロコから援軍が到着したようだ。 肉眼で確認できた。重装備の剣士の団体が砂煙をあげて向ってくる。 リラも家の中から出てきた。緊張のせいか顔色が良くない。 「リラさんこちらへ。隊の者に紹介しますので。」 「はい」 声も、か細い大丈夫だろうか・・・・ チカの家の前に13頭の馬が並ぶ。剣士達が馬を下り始めた。 よく統制が取れている。隊全体の動きに無駄がない。 その一団の中からいかにも空気の違う男が前に出る。 「君が、プロンテラのミュラ君かね?」 「はい。プロンテラ西支部 第2隊副長をしています。ミュラ バークマンと言います。」 「そうか失礼した。私はモロコ支部 支部隊長のラバエル ロックフィールドだ。よろしく頼む。」 「こちらこそ、よろしくお願いします。ラバエル隊長さっそくですが紹介したい方が・・・」 「報告で聞いた方かね?」 リラの方を見ながらラバエルは聞いた。 「はい、そうです。この度お手伝い頂くリラさんです。」 「リラ クリースです。勝手な申し出を受けてくださってありがとうございました。」 「いえいえ。こちらこそ危険な任務に参加いただいて申し訳ない。 出来る限りあなたをお守りしつつ任務を遂行しますのでご安心ください。」 リラの顔つきが変った。 「・・・・いえ。自分の身は自分で守ります。私は僧侶です。 皆さんをサポートするのが役目。お気遣い無き様お願いします。」 「はっはっは。肝の据わったお嬢さんだ。それならば、なおの事お守りせねば。 ヒーラーは戦闘で重要なポスト。倒れられたらこっちも困るのです。ご理解いただきたい。」 「・・・・わかりました。」 「よろしい。さてミュラ君。君に副長をしてもらう訳だが・・・」 「はい。聞いています。」 「そうか。君が退治した三匹の大蠍について作戦の立案も含め話をしたいのだがいいかね?」 「わかりました。では、この家の主に部屋を借りて来ます。」 「よろしく頼む。リラさんは、他の者達と待っていて貰いたい。30分ほどで済むと思います。」 「はい。では準備も兼ねて少し席を外します。」 「そうするといい。・・・・・・カイ!」 一団の一人からから声があがる。 「ハッ!」 「聞いていたとおり私はミュラ君と話してくる。ここは任した。」 「了解しました。」 カイがそう返事をすると剣士達は、少し離れたところへ移動し装備の点検を始める。 ラバエルは、それを確認すると家の中へ入って来た。 「彼は、うちで中堅の剣士でね。隊を良くまとめてくれている。新人がほとんどの編成だが心配は無用だよ。ミュラ君。」 「えっ?」 先ほど心配していたことを見事に言い当てられ、しばらくラバエルの顔を凝視してしまった。 「はっはっは。そんなに驚く事はあるまい。誰でも考えることだよ。私だって君の立場なら心配することだしなぁ。」 「いえ、余計な心配でした。隊長のようなお人がまとめられている隊なら問題ないでしょう。」 心底そう思った。 そうこうしているとリラが自分の部屋から荷物を持って出て行った。 さっきまでの顔色の悪さからは想像出来ないほどしっかりした足取りだ。 なにか吹っ切ったように見える。 ラバエルを、アマミヤ家の主人に引き合わせ挨拶をしたのち 借りていた部屋で作戦を練り始めた。 大蠍の事、2年前の星の落下の事をすべて話し終えた時。 何も言わず聞いていたラバエルが髭に手をそえながら口を開いた。 「2年前のことは私も知っているよ。あらぬ噂が広まったようだが、事実は君が話したとおりさ。」 「星の落下と突然変異モンスターとは関連あるのでしょうか?」 「それは、なんとも言えんが・・・影響がないとは一概には言えないだろうな。 当時あの一帯の気候はひどいもんだったそうだ。それだけの影響力はあるだろう。」 「そうですね。気候の変化によって生物が対応し進化する・・・」 「なんだ、やけに学者らしい言い方じゃないかね?」 「剣士になる前にかじってましたから」 「ほぉ大したもんだ。頭のいい奴は戦略もうまいからな。いい事だ。」 「恐縮です。でどう攻めますか?」 「そうだな・・・まず・・・」 バタバタバタバタ バン!! 突然部屋のドアが勢い良く開いた。 「大変ッ!!」 「チカ?リラさんもかどうしたんだ?」 「どうしたね。お嬢さん、落ち着きなさい。」 「これが落ち着いてられますかっ!この町のある屋敷に盗賊が入ったのよッ!!」 「ラバエル隊長!!」 「なんとも、微妙なタイミングだな・・・しかし見過ごせまい。いくかミュラ君」 「はい。君らはここで待っていてくれ。盗賊は我々で何とかする。」 「私もいきますっ!!」 「駄目だ!相手はモンスタじゃない知恵を使ってくる人間相手なんだ。足手まといはいらない!」 「・・・先に行っているぞ。ミュラ君。」 ラバエルが部屋を出て行く。 「・・・・それなら、ひとつだけやらせて下さいまし。」 「?」 「リラ?」 チカも隣で不思議そうに見ている。 リラはゆっくり目を閉じ両手を胸の前で組んだ。 それと同時に小さいがはっきりと聞こえる言霊が発せられ出す。 原素の糧たる精霊の秩序を統括する大精霊マクスウェル・・・・・ その物理を超ずる力を持って地上との鎖を解き放ち 我、守護するものへその加護を与えん・・・ キュィ・・・ィィ・・・・ィィィ・・・・ン 部屋中にみるみる光があふれていく。 ゆっくり目をあけたリラが近づいて来る。 俺の額に手を添え 「...インヴォゥク」 言った瞬間、部屋中の光がリラの手に集中し そしてそれが俺の体中を覆う。 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 静かに光がおさまる。 「・・・・ふぅ。はい終わりました。初めて使ったので契約から入っちゃいましたけど、これで体が軽くなっているはずです。」 完全に俺、チカ共に気おされてしまっていた。 「・・・あ、あぁ、ありがとう。確かに体が軽い。これなら奴らの素早さにもついていけるかもな。」 「うぁ、、、精霊の契約から見たの初めてだよ。いつもは、魔法名だけだったもんねぇ。」 「それじゃ行って来る。君らはここで待っているように。いいね?」 「ハイハイ。早くいきなよ。」 「お気をつけて。」 部屋を出る。自分が軽くなったというか周りの動きが遅く感じる。 ラバエル達は身支度を整えすでに出るところだった。 「来たか。準備はいいかね?」 「はい。それと隊長、2Fの制圧は任せてもらえませんでしょうか?」 「うん?」 「リラさんに特別な魔法をかけてもらいました。これなら、鎧をぬげば外から2Fへ進入できると思うのです。」 「ほぉ。そうか、確かに2Fに住民がいる可能性が高い。我々が1Fで注意をそらせている間にお願いできるかね?」 「任せてください。」 「よしッ! では行くぞ!!」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 六節へ続く・・・ |