■ Novel - 名も無き冒険者たち -



プロローグ


 「いよいよだな」
 青い髪の青年が呟く。
 そこは、鬱蒼とした森。顔を上げても空は見えず、ただ樹海の緑あるのみ。
 木々の葉は正に天を覆い尽くさんばかりであり、時折吹く風に大きく揺れていた。
 いずれも、大人一人の両腕では抱えきれないくらい、幹が太い。数百、数千という歳月を、変わらぬ姿で過ごしてきた巨木。この森は、人間とは比較にならぬ時を生きてきたのだ。
 それほど自然豊かな森にも関わらず、何故か生命の息吹は感じられない。
 鳥の鳴き声はおろか、小動物も、虫の類すら認められなかった。もう、半日も内部を彷徨っているというのにだ。
「気をつけて下さい。何か、邪悪な気配を感じます。そう遠くありません」
 先頭に立つ青年の後、数歩離れたところを歩く少女は、厳かに告げた。
 手にしているランプから漏れる淡い灯りのせいか、表情は幾分強張って見える。
「わかってるさ。オレたちは奴を討つためにここまで来たんだからな」
「だね。まさか、今さら引き返すわけにもいかないし」
「そろそろ、臨戦体勢に入った方がいいんじゃなくて? あたしの魔法なら、すぐにでも撃てるけどね」
 一行――青年と少女を含め、四人――は、少女の言葉に立ち止まり、互いに顔を見合わせた。
 おおよそ、二十歳前後。一様に緊張した面持ちである。
 各々、頼りとする剣や弓矢、杖やメイスを手にし、絶え間なく周囲に注意を払っていた。
「心配ない。いつでも抜けるよう、鞘に手をかけてる」 
 刃先が滑る乾いた音。
 俊敏な動作だ。青年は両手持ちの大剣を正眼に構え、一度、虚空を横に凪ぐ。
 銀色の軌跡が描かれ、また、何事も無かったかのように剣は元の鞘にしまわれた。
 彼はソードマン。そして、彼の仲間たち。アーチャー、マジシャン、アコライト。
 四人は長きに渡って冒険を共にし、今日、この森を訪れた。
 目的は唯一つ。森の最奥に潜むという、魔神を退治すること。それによって得られる富、或いは名声、さらには正義を求めて。
「一休みします? それとも、このまま?」
 気を緩める間もなかった。
 なにせ、一歩足を踏み入れたら二度と生きては帰れぬ魔の森。幾つもの名だたるパーティーが挑み、挑んでは消えていった。
 禍禍しい霧が立ち込め、視界も利かない。薄闇に覆われ、どこか湿った空気に包まれていた。
「いや。一気に行く。あまり時間もないしな」
「日が暮れると厄介なことになるかも……」
「そうね。さっさと終わらせて、早く街に帰りたいわ」
 彼の一言に、他の三人は頷いた。
 彼女が助言し、リーダーである彼が方針を決定する。彼らはこうして、幾度もの危地を脱してきた。
 おそらく、今回も……。
「みんな、覚悟はいいか?」
 その時!
 左右の茂みが、不自然に揺れ――。

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