第一部 二節 星降る焚き火 |
・・・・・パチッパチッ・・・・・・・・・・パチッ・・・・・・・・・・・・・・ パチッ・・・・・パチッパチッ・・・・・・・・・・・・・・ 寒い・・・・。毛布をかぶり直す。焚き火側の体がとても心地よい。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??・・・・ 毛布?・・焚き火? ガバッ! 起きてみた。焚き火が煌々と輝いている。周りは何も無い真っ暗な砂漠だ。 焚き火の周りには、たくさんの荷物と駱駝(ラクダ)が二頭居た。 どうやら、行商人に助けられたようだ。 よく見ると寝ていたすぐそばには、刃こぼれした日本刀と防具一式、それからあの大蠍の甲羅があった。 戦闘で傷ついた時の手当てもしてくれたらしい。体のあちこちに包帯が巻かれている。 ・・・・ほんとに運が良かった。おそらく・・いやあそこで倒れたまま助けられずに朝を迎えていたら 凍死していただろう。凍死しなくとも次の日の昼間で干からびていたはずだ。 そういえば、助けてくれた行商人はどこにいるのだろう?あたりには居ないようだ。 「あら・・・気がついたのですね。よかった。」 ふいに背後から声がかかった。すかさず剣に手をのばす。 「クスクス。それだけ動ければもう大丈夫ね。」 「君が手当てを?」 剣に伸ばした手を包帯に当てながら言った。 「えぇ、そうです。でもあなたを見つけたのは私じゃないの。」 「そうか、どちらにしろ瀕死の所を助けてもらい感謝します。」 「いいんですよぉ。お仕事のうちですから。」 目の前の彼女は、微笑みながら俺の前に座った。 「仕事?君は医者か?」 「うーん似たようなものだけど。正確には聖官。聖職者ね。医者なんて聖官以外でやってる人ほとんどいませんけど。」 彼女はの傷具合を丁寧に見ながら、なお微笑んでいる。根っからの聖官らしい。 「傷の具合は大丈夫そう。ヒールがよく効いてるみたい。あなたの生命力が高いせいですね。」 「これくらいの傷ならほっといても二、三日で直るからなぁ。」 「だめですよ。ちゃんと手当てしないと、ばい菌が入ります。」 「なぁに、そこで打ち解けてんのっ、リラ。」 目の前の彼女の背後から人影が見えた。どうやら俺を見つけてくれた商人はこの人らしい。 「あら、チカ。もういいの?」 「ん。あぁ、ここには無いみたいねぇ。今日は諦めるわ。」 「あら、めずらし。いつも朝方まで探してるくせに」 「そんなことは、客人の前で言わなくていいのよ!」 チカと呼ばれた彼女は顔を赤くしながら、こっちを見た。 「それで?傷の具合は?」 「あぁ、おかげさまで。傷より脱水症状のほうが深刻だったようだし。 あなたが見つけてくれたようで、どうもありがとう。」 「ん〜。まぁ通りかかっただけだしね。あんたの運が良かったのよ。 それにしてもあんな砂漠のど真ん中でどーして倒れてたわけ?」 「あぁそれは・・・・」 俺は二人に事の成り行きを説明した。 「へ〜!!じゃぁ感謝しないといけないのはこっちじゃない。たいしたもんねぇ、さすが剣士様だわ。」 「あれくらいならね。二匹だったのは大誤算だったが・・・」 「あの大きな甲羅は、蠍だったのですね。何かと思いました。」 「まぁ一応、倒した証みたいなものがないと駄目ですから」 「ねぇ!あの甲羅どーするの?」 「んー。依頼人に見せたあとは、収集商人(コレクター)にでも売るかな。」 「じゃぁじゃぁ、あたしに売って!!!」 チカは、身を乗り出して顔を近づけながら言った。 「あ、あぁそれは構わないが、、あんたコレクターか?」 「違うわよ!あんな、サルの尻尾とか虫の皮とか見てうっとりしてるような奴らと一緒にしないでっ! 転売よ。て・ん・ば・い。」 「・・・・・・・・・・・・」 俺は、あまりの勢いに唖然とした。 「ほらぁ、チカだめじゃない。彼、驚いちゃってるわよ。」 「いや、そうだな。そういうことなら助けてもらった事だし君にあげるよ。チカさん。」 「ホントッ!?」 「あ、あぁ。」 不覚な事にまたしてもビビッタ。。。。 「キャ〜。いい人だわぁ。えぇ〜と・・・・・・。」 「あ、すまない。名乗るのを忘れていた。俺はプロンテラ剣士ギルド所属のミュラだ。よろしく」 「あら、プロンテラの方がどうして砂漠へ?」 「まぁモロコへの野暮用です。」 どうにもリラという娘には丁寧な言葉使いになってしまう。彼女の雰囲気のせいだろうか? 「ミュラさん。やっぱりタダじゃ悪いからこれ、はい。」 そういってチカは、袋を俺の手に置いた。重い。 「ちょっ。これ2000zenyはあるぞ。多すぎるだろ。」 「おぉ、重さだけで金額を当てるなんて大したもんだわ。」 「いや、そうじゃなくて・・・」 「金額のことなら大丈夫よ。あれなら二つで最低4000で売れるわ。」 「4000!!!」 「あれだけの大きさだもの。かなり珍しいし、見たところ雄と雌で対ぽいしね。」 そうなのだ、話で聞いた事がある。 大型の突然変異などの亜種は一匹だけということはまず無いそうなのだ。 必ず雄雌でいる。でないと絶えてしまうからだ。 そうやってこの世界の生物は進化している。 そのことにもう少し早く気づいてれば不覚を取らなかったのに。 「ミュラさんがコレクターに直接取り合ってたら200くらいで買い叩かれてたでしょうねぇ」 「そうか、どの道俺にとってあんた達に出会ったのは運が良かったのか。」 笑った。久しぶりのような気がする。最後に笑ったのはいつだろう・・・・ 「それじゃ。話も一段落したところでそろそろ休みましょう。あしたも早いわ。」 「そうね。そうしますか。」 「俺は見張りをするよ。さすがにもう眠れない。」 「そぉ?じゃお願いしよっかな。間違っても寝てるのをいい事に襲わないように。」 「・・・・・・そんなことしたらギルドをクビになっちまう。」 「あははは。冗談だって、さっ寝よ寝よ。」 「もうチカったら品がなさすぎよ。ミュラさん気にしないでください。いつもあぁなんです。」 「いや、気にしてませんが。リラさんもゆっくり休んでください。」 「はい。では失礼して、おやすみなさい。」 リラはお辞儀をするとチカと連れだって焚き火の向こう側にあるテントの方へ歩いていった。 しかし娘二人で従者もつけず砂漠のど真ん中で何をしていたのだろう? なにかを探していたようだったが・・・・・。 まぁ関係ないことだ。助けてもらったのだ、余計な詮索はすまい。 空を見上げた。雲ひとつない、あたり一面星のだらけだ。 砂漠へ来て一番驚いたのはこの星の多さだ。空気がきれいなせいか星が近く見える。 焚き火の炎が舞い上がる。星が降る。神秘的な夜だった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 三節へ続く |