第一部 六節 義賊
とある砂漠の宿場町。今日の獲物はここの魔術関連の商品を取り扱っている商人の館だ。
最近、ゲッフェンの魔法士ギルドとの癒着が噂されているところでもある。
予想通り、かなり溜め込んでいたらしい。
これでモロコ市外部にたむろしている子供達を何十人も救う事が出来るはずだ。
モロコは貧しい街。商売は盛んだが貧富の差が激しいため一向に街自体が活性化しない。
我々はそんな街で寄生してあくどい商売をしている商人達を狙う「義賊」である。

この宿場町には、警備すらろくに居ない。調査済みである。
ほとんどが自警団どまりの素人だ。
かかってきたところでこちらの相手ではない。

目の前のこの家の主をどうするか。思案していたところだ。
いつもどおりに癒着の証拠を世間にばら撒くのもいいのだが、効果が薄い。
やっているのが我々だからであろうと思う。
世論に訴えるには、こちらもまっとうにしなければ、とても無理な話しだ。
どうしたものか。。。





ギィ・・・・・・・・・

不意にベランダの方から音がした。
その瞬間黒い影が襲ってきた。

ブワァッ!! フオォ!! 
大きな黒い影が宙を薙ぐ!

ここは2階のはずどうして?そんな疑問も吹き飛ぶような速い鋭い攻撃だ。
手馴れている。

「完全な不意打ちだったのにしとめれなかったか・・・」
目の前の敵がそうしゃべる。

「何者だ・・・・?」
ここ2階には私と部下が2人。後は人質が3名だけだ。後は皆、下で待機している。
人質も最初の一撃のときに目の前に立ちはだかれ今ではそいつの後ろである。
見事な不意打ちだった。

「剣士ギルドの者だ。住民から通報があって駆けつけた。観念することだな。」
そう言いながら住人をベランダへ逃がしている。隙がない。

「剣士だと? ここにはそんなやつら居ないはず・・・?」
部下を一瞬見る

バシュッ!!

「クッ!」

スキを見せた瞬間これだ。たまったものではない。

お互いに隙を見せまいと
膠着状態がしばらく続く。





「ッ!?・・・・なんだ・・・・・カラダが・・・」

「ようやく効いたか、新種のしびれ薬だよ。かすっただけでも即効性があるものだ。」

「ケンシのクセに・・・我々みたいな手を・・・ッ。。。。」
意識ははっきりしているが、体が動かない。

「お頭ッ!! ッ!? くそぉ!!!」
部下の一人が立ち向かう。
フェイントを入れながらの見事な攻撃だ。
・・・が相手が悪すぎた。

フェイントを入れた瞬間、動きが止まる。
そこを奴の持つ大剣の側面で思いっきり横打された。

ガシャァーーーンッ!!!!!

部下が壁に吹き飛ぶ。

それを合図に下のほうでも騒ぎが起こり始めた。
おそらく別働隊だろう。完全に術中に嵌ってしまった。

「・・・・俺が相手だ。」
もう一人の部下と言うより私と同位置にいるエルクが名乗りでた。

「降参しろ。お前らに勝ち目はない・・・・。」
鷹のような鋭い目。いくつも修羅場をくぐった者の眼だ。

「エ・・ルク・・・逃ゲなさぃ・・あん・・ただけでも・・・。」
後ろにある金の束を見ながら精一杯声を出す。
あれがなくなればモロコの子供たちが。。。

「ビー・・・。無理だ。こいつの攻撃をかわしつつ逃げきる事なんて俺にゃ出来ないね。」

「できるとすればっ!!!」
エルクが消えた。

「!?」
剣士のなにもない側面からナイフが光る!

血の色が宙を一閃した。

剣士がかろうじてしゃがみ避けたが喉を確実に捉えていた。

「グッ!」

皮一枚切っただけだろう。剣士の癖になんという瞬発力だ。
鎧がないのを差し引いても速すぎる。

相変わらず消えたままエルクの攻撃が続く。

ブシュ! スパァ! ビシュ!

見る見るうちに剣士の服がぼろぼろになっていく。
すべて急所狙っている。
それを避け続ける剣士。・・・・・・・がふと動きが止まった。
自分の喉下で大剣を盾にしてナイフの攻撃を受け止めていた。

「急所ばっか狙ってたらどこに来るかぐらい予想つくってんだよッ!!!!!」

そのまま大剣を振りエルクの見えない体ごと壁に叩きつけた。

ドカッ!!!!!

「ゴフッ!!」
壁に叩きつけられた瞬間体が姿をあらわす。そのまま気を失ったようだった。

「くそぉ。また服が、おじゃんだ。まったく・・・・」

「さて、下のほうもあらかた済んだようだ。さすがに観念するよな?お頭さん。」

そこで私も気を失った。

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「ビーキス?」

「それが本名か?」

「悪いかしら?」

「ふぅ。。。。もういい。お前の部下から全部聞いてきた。
 義賊クロイツ頭目 ヴィス=キスマークだな?」

「やめて頂戴ッ!その名で呼ばないで嫌いなのよ。」

「そんな立場じゃないだろう。状況わかってるのか?」

「・・・・・・・・。」

「たとえだ。盗んだ金がどれだけ汚い金で、その金がいい事に使われようが盗みは盗みだ。
 それはわかるよな?
 だが、モロコの子供達のことは俺も知っている。ここまでひどいとは思わなかったが・・・」

「知っているだけでしょ?知っていて何もしようとしないあなた達はあの商人と同罪よ!」

「盗賊に罪を問われたくないが、まぁ事実だな。
 それに関しては我が剣士ギルドで何とかすることにした。安心しろ。」

「なんとかって。。。。」

「保護するってことだよ。スポンサーも居る。
 将来剣士になりたい奴はそのままとどまればいいし、違う道を選ぶのも自由だ。」

ヴィスの目に明らかに敗北の色が見てとれた。

「・・・・・もっと他にやりようがあっただろう。」

「首都でぬくぬく生きてきた人に言われたくないわ・・・・。」

「・・・・わかった。もう何も言うまい。お前らの処罰は追って知らせる。 それまでおとなしくしていろ。」

「そうそう、後ひとつ。お前らが襲った館には4人が住んでいたんだ。
 主人。婦人。祖父。そして17歳の少女だ。おまえらが居る間中物置きのなかで
 ずっと震えて隠れていたそうだ。恐怖からか今でも口が聞けない。
 お前らのいう子供達のことも大事だが、そのおかげでとばっちりを受けたあの娘はどーなる?
 この先一生心に傷を背負っていかなくてはならないかもしれないんだ。
 ・・・・よく考えてみるんだな。」

小さな牢を跡にする。

「・・・・ふぅ。」
深いため息しかでやしない。

「終わったかね?」
ラバエルの姿が見えた。

「あ、はい。たった今終わりました。何故かすっきりしませんが・・・」

「しょうがあるまい。彼らによって助かった子供達も大勢いるのだ。
 手をこまねいて何も出来なかった政府と我々のせいだな。。。」

「・・・・被害者の方もあらかた片付いた。主人をあわせて三名か?
 こいつらは癒着を三世代前からやってた事を認めたよ。
 あとはゲッフェンの出方次第だが。まぁ充てにならんだろうな。
 あと、あの娘。・・・・・あの娘は関知していないな。
 魔法学校に行っていたらしいが、もう通えまい。
 身よりもなくなったわけだし、・・・・・・・さてどうするかな。」


その事で先ほどから考えている事があった。

「ラバエル隊長。あの娘は、私にまかせていただけませんか?
 知り合いにいい人が居るのです。その方にお願いしようと思うのですが・・・」

「・・・・・それはかまわんが、だめだったときはどうするのだ。連れて行ってだめでしたでは済まんぞ?」

「その時は私が責任を持って引き取ります。十分な環境を与えて上げれないかもしれませんが・・」

「・・・ふぅ・・・・・・・わかった。他にいい案もなかろう。君に任した。」

「はい。ありがとうございます。」

「それより傷はいいのか?喉をやられたらしいが。」

「大した事ありません。あいつら毒ナイフすら使わない本当の義賊だったようです。
 塗られていたらやばかったでしょうね。」

「前途ある若者が盗賊に身を寄せるのも、そのせいなのだろう。我々もしっかりせねばな。」

「しかし、派手に壊しただなぁ。最初に叩き飛ばした奴は肋骨が折れてたらしいぞ?」

「オジキとかいいましたか?あれくらいやらねば、こちらがやられていました。それほど手練れ揃いです。
 とくにエルクとかいう者。次やることがあれば負けるでしょう。
 ・・・・・・今回勝てたのはリラさんのおかげです。」

「そんなことありません。」
リラが顔をだす。

「あの魔法は、かかった者の能力を引き出すだけです。あれだけの力がミュラさんにはあるんですよ。
 今はまだそれが眠っているだけです。」

「・・・・あの速さが俺に?」

「うはははは。前途ある若者はここにも居たと言う事か!我々みたいな老いぼれは引退だな。」

「からかわないでください。私はそんなに強くありません。」

「だからこれから強くなるのだろう? 今でも剣士としては十分だがね。」

「さぁ。傷の手当てをしましょう。チカも心配してますから顔を見せてやってくださいな。」

「よぉーく言うわよ。一番顔にでてたのリラの方じゃない。
 あの魔法、かけてから30分前後しかもたないて後から気づいて大慌てだったじゃない。」

「チカッ!来てたの?」

「30分か、ぎりぎりだったんだな。
 ・・・もしあの速さが俺の中で眠っているものならば、そこから引き出してみるか。」

「ふふ。若さはいい。ひたすら自分を高めることに熱中できるからな。がんばれよ、ミュラ君。」

「ラバエル隊長?」

「あ、いやなんでもない。年寄りの愚痴だと思ってくれ。
 さて、西の砂漠への進軍だが今日は見合わせる事にしよう。不測の事態だからな。
 明日、日時を追って知らせる。奴らの処罰もな。
 ゆっくり休みたまえ。今日一番働いたのは君だからな。」

「はい。了解しました。隊長もごゆっくりお休みください。」

「うむ。でわな。お嬢さん方ミュラ君の傷の手当て頼んだよ。」

「はい。それが勤めですから。」
ラバエルが奥の部屋へと下がっていった。

「ラバエル様。とても良い方ですね。とても落ち着かれていますし信頼されてるみたいです。」

「そうだな・・・・。少し様子がおかしかったようだが疲れておられるのだろう。」

「人の心配より、自分の心配したら?あんた、まぁ毎回ぼろぼろでよく死なないわね?」

「チカは口が悪すぎよ。功労者にたいしてそんな言い方無いでしょう?」

「いや。いいんだ。俺が未熟なだけだからな。それよりあの娘はどーしてる?」

「だから、人の心配より傷の手当て先に受けなさいって!」

「わかったよ。。。じゃぁお願いします。リラさん。」




長い夜が終わった。
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七節へ続く・・・